横浜の整体 横浜天王町カイロプラクティック
JR横浜駅より相鉄線各駅停車で3駅。相鉄線天王町駅より徒歩四分。土日も営業。
Tel:045-331-0039

症例集045:小脳の機能的問題からくる、両膝の痛み。

主 訴:

小脳の機能的問題からくる、両膝の痛み。

両膝の痛み(右>左)を主訴とする、40代男性の患者さんが来院。しかし、この方は来院時に靴を脱ぐ動作で随分ふらついき、片足でバランスを維持す るのが相当困難なように思えた。膝の痛みは結果であり、本当の原因は運動制御に関わる中枢の問題ではないかと考えられる。

観察:

この方の姿勢を観察すると右前傾の姿勢で、下肢の四頭筋などの伸筋が緊張している。特に右脚は棒のようになっている。そして上肢は猫背で酷い前方頭 位。肩は右が巻き肩。上肢は下肢とは対照的に屈曲筋群が全体的に緊張していた。

検査:

次にバランス感覚の検査を行った。バランス感覚の検査では片足立ちと、踵と爪先をくっつけて一直線上を歩く「継ぎ脚歩行」を行なった。その他にも小 脳の問題があると考え、推尺異常の有無と、反復拮抗運動、眼球運動(サッケードとパスート)とさらに遮眼書字の検査を行う。その結果、推尺異常と眼球運動と遮眼書字で異常が確認された。

検査所見:

片足立ちは両側数秒で転倒するのだが、右片足立ちだと2秒も維持できなかった。継ぎ脚歩行は歩けてもせいぜい2歩程度であった。

推尺異常の検査では、患者が自分の鼻と検者の指をそれぞれ交互に触る「指ー鼻試験」を行った。その時に鼻から指に近づく時に手の震え(企画振戦)が生じ、 患者さんの指が目標(検者の指)からそれたり、行き過ぎる測定過大が生じる。

検査は、指をあらゆる方向に移動させて行ったり、手を変えて行ったが、手の左右差はそれほどなく、ただ左の視野に目標が移動すると振戦や測定過大が 酷くなる傾向があった。

眼球運動の検査では、素早く眼球を動かすサッケードとゆっくり目標を眼で追う滑動性眼球運動(パスート)を行わせた。これも推尺運動と同じで左に指 標があるときに異常が生じた。

サッケードでは指標が左にあるとき、眼球は指標よりも行き過ぎるオーバーシュートが生じ、パスートでは指標が左に移動すると眼球運動の滑らかさがな くなり、細かいサッケードを繰り返すように視標を追うために、動きがガクガクしていた。 サッケードもパスートも異常は左を向いたときに生じている。

遮眼書字は目をつぶった状態で字を書かせる検査で、小脳に異常があると字が大きくなったり、字の傾きが大きくなる。これはバランス感覚が悪い方と一 致して字は右に傾いてゆく。遮眼のせいで視界の影響がないため、左には出なかったのではないかと主考えられる。

検査のまとめ:

以上、視診や検査によって分かった異常をまとめると、姿勢は右に傾き右重心。右の上肢の屈筋と下肢の伸筋(主に大腿四頭筋)が緊張している。バラン ス感覚は両方悪いが左<右で悪い。これは主訴である膝の痛みと一致している。

推尺運動では振戦が生じ、特に指標が左に移動すると酷くなる傾向がある。眼球運動の異常も眼球を左に向けるときに眼振が生じる。つまり、運動の問題 は右に生じ、眼球運動は左に動かしたときに生じる。これら体幹の筋筋長とバランス感覚と眼球運動の3つ影響する部位は小脳の虫部である。


仮説診断:

虫部には皮質と小脳核があり、それぞれバランス感覚や眼球運動の中枢である前庭神経核や姿勢制御や筋肉の緊張を支配する脳幹網様体を支配している。 図1参照

小脳虫部
図1小脳虫部※中倍医学社 「Clinical Neurosciense 2009年7月号より抜粋」

前庭神経核は三半規管は頭の傾きや回転の信号を受ける。そして三半規管からの信号をもとに姿勢を補正する反射「姿勢反射」と眼球運動を補正する反射 「前庭動眼反射」を出力する。姿勢反射は前庭脊髄路を通って上肢の屈曲筋と下肢の伸筋を収縮させる。前庭動眼反射は脳幹を通って各動眼筋へと送られて、傾きや回転を補正する眼球運動が出力される。図2参照。

この前庭神経核を支配しているのが皮質のプルキンエ細胞と小脳核である。小脳皮質の細胞は小脳核(室頂核)と前庭神経核を抑制的に支配し、各種反射運動の活動を抑えている。そうすることで細かく運動の出力を調整し、適切な筋緊張を維持し運動を円滑にしている。一方、室頂核は前庭神経核や網様体を興奮性に支配している。

皮質の機能が低下すると、室頂核と前庭神経核などの興奮を抑制する能力が低下して、反射運動が増強し運動が雑になる。筋緊張は室頂核からの興奮性の 信号を受けて緊張が増す。

小脳の解剖
図2 ※丸善株式会社:「ネッター医学図譜 脳・神経系1」より抜粋。

患者さんの右の上肢の屈筋と下肢の伸筋(主に大腿四頭筋)が緊張した姿勢と右片足建でのバランスの悪さは、右の小脳虫部の皮質の機能が低下したせい で、室頂核と前庭神経核への抑制が弱まり、反射を適切にコントロール出来ない結果、生じたものと考えられる。そこから問題は右の小脳皮質にあると考えられる。

しかし、眼球運動の異常は姿勢とは逆に左に出ているが、これは小脳皮質と小脳核ではサッケードに果たす役割が逆になっていることが原因と考えられ る。小脳虫部のプルキンエ細胞は同側(右)のサッケードの加速、対側のサッケードの減速に関わっている。逆に小脳室頂核(厳密には室頂核後部の領域 FOR)は対 側(左)のサッケードの加速と同側(右)の減速に関わっている。患者さんの左のサッケードでオーバーシュートが出る現象は、室頂核の活動を抑制する虫部皮 質のプルキンエ細胞の活動が弱まったことにより、室頂核の興奮が増加、結果、対側(左側)のサッケードが加速してオーバーシュートが生じたと考えられる。

診  断

今までの症状と考察をまとめたると、患者さんの小脳の問題部位は、右の小脳虫部の皮質プルキンエ細胞の機能低下が原因によるバランス感覚と眼球運動 の異常 と判断できる。この症状を「右の小脳虫部の皮質プルキンエ細胞の機能低下が原因によるバランス感覚と眼球運動の異常」と定義する。

カイロプラクティックでの施術上の戦略:

脳の処理能力に問題があったとしてもカイロプラクティクでは、小脳や大脳へ直に介入することは出来ない。出来ることは矯正によって入力の質を変え、結果的に処理能力を改善させる意外に手がない。

この場合の入力の質とは、固有受容器を刺激し体性感覚を正常にすることである。なぜなら、皮質プルキンエ細胞が筋肉の緊張や関節の位置を感知する固 有感覚受容器からの信号を受けて、前庭神経核を抑制して反射運動をコントロールしている。それならば、関節や筋肉の状態を物理的にバランスがとれている状態にすることで、皮質への入力の質を変え、結果的に運動の質を変化させる。つまり、頭位や眼位に影響する頸椎と立位のバランスに影響する骨盤の偏移をアジャストによって最適な状態にし、入力の質を変える。入力の質が変わることで出力の質を変え、最終的には脳の可塑的な変化をもたらし、欠陥部分を補っていこうとす るのが、治療上の戦略となる。

カイロプラクティックでの施術:

施術は骨盤と股関節それと膝のねじれやズレを矯正し、この状態で片足建ちでのバランスをチェックすると、両方とも10秒以上片足建ちを維持できるよ うにな る。

次に上部頸椎のズレを、極力回旋を加えずに矯正すると、指鼻試験での企画振戦や測定課題はほとんどなくなる。また、眼球運動でのオーバーシュートの 振幅も わずかになった。この日はこれで終了。

二度目に来たときも、バランス感覚はほとんど問題なかった。今回は、前庭からの入力が増えることで反射が増強され、バランス感覚が悪化するかどうか 確かめ るちょっとした実験を行った。そのために、素早く頭部を回旋させて矯正する振りをした。すると、バランス感覚は悪くなり、右片足建ちをさせても5秒もせず に脚がつく。眼球運動や推尺も悪化して、眼振や測定課題が生じた。しかし、企画振戦はなかった。やはり前庭刺激が入ると前庭神経核の興奮が高まり、機能低 下した虫部皮質プルキンエ細胞の抑制機能では抑えが利かなくなるようだ。この日は、足根骨から距骨など四肢末端の矯正を行い、来た時よりはマシな状態にし て終了した。

3度目に来たときはバランス感覚は前回よりも悪くなり、膝の痛みも訴えていた。姿勢もかなり前傾になり初期に近い状態になっていた。また、骨盤と股関節と 膝の矯正を行い、頸椎は回旋を加えない方法で矯正をした。施術後の検査では、推尺運動、バランス感覚、眼球運動、姿勢ともすべてほぼ正常。遮眼書字だけが 右に傾いていた。しかしこれも、右の肩関節を矯正することで傾きが無くなった。

現  在:

現在では膝の痛みもなく、メンテナンスで通いながらスポーツを楽しんでいる。

トップ症例集症例集045:小脳の機能的問題から生じる両膝の痛み。